一般社団法人レーザー学会会長  久間 和生

会長からのメッセージ

会長:久間和生

1960年にレーザーが発明されて以来,「光」が有する多くの優れた特長を積極的に活用することが可能になりました.
特に光技術は,日本が研究開発をリードしてきた分野であり,LED照明,大容量・高速光通信,内視鏡診断,光触媒など,現代の社会生活の隅々にまで「光」を活用した技術が浸透しています.また,レーザー応用はここに来てプロジェクタなどのディスプレイ,LiDAR(ライダー),先進加工が実用化されました.光科学技術は,世界的に研究開発が急速に進められており,まさに21世紀は“光の世紀”となりつつあります.

電波に近いテラヘルツ光から,可視光,X線にわたる広い波長領域の電磁波技術,フェムト秒からアト秒領域の超短光パルス技術,ピーク強度がペタワットをこえるハイパワーレーザー技術,放射光,電子,中性子等のビームを利用する量子ビーム技術などが開発され,新しい原理・現象の解明にとどまらず,新素材の開発,品種改良,創薬,インフラの診断や点検等に活用されています.また,光技術はこれまで,テレビ,カメラ,プリンター等,我々の日常生活における画像技術や,光通信技術,計測技術,医療技術やレーザー加工技術など,私たちの生活や産業を支える極めて重要な技術として発展してきました.
とはいえ,光科学技術は,一般の人にとってはまだまだ難解であり,日常生活とかけ離れたものと捉えられることも多く,研究成果の価値や,経済・社会にとっての意義が理解されにくい面もあります.また,我が国は,2016年1月に策定された「第5期科学技術基本計画」にもあります通り,将来の産業構造と社会システムのあるべき姿である「Society5.0」の実現により,科学技術イノベーションを続々と創出する国家を目指しています.Society 5.0とは,「経済成長と社会的課題の解決を両立」することで,「人間中心の社会」を築くという世界初の概念です.ICTを活用してフィジカル空間とサイバー空間を高度に融合させることにより,産業構造と社会システムに新たな価値を創造するものです.エネルギー,ものづくり,交通,健康・医療,農業,防災・減災などのサイバー・フィジカルシステムを構築する上で,プラットフォームとして,各システムのデータベースの整備や人工知能,サイバーセキュリティなどの基盤技術の開発が重要です.光・量子技術もフィジカル空間の重要な基盤技術のひとつと考えられています.

学会活動は,科学技術の幅広い可能性を産業界や社会に発信し,新現象の発見,基盤技術の強化や新製品の開発に向けて議論する有意義な場であるとともに,人材育成の場でもあります.レーザー学会も,①学術の振興,②社会・産業界での実用化,③人材の育成 という3つの役割を推し進める必要があると考えます.
近年の学術講演会年次大会のシンポジウムやOPIC等の国際会議などでは,エネルギー・通信・車・医療・インフラ・農業・照明・アートなど,光・レーザーの応用分野が多岐にわたって拡がりをみせ,国内外の研究機関や産業界から多くの方々が参加されるようになってきたこと,技術専門委員会の新たなコミュニティーが立ち上がってきたことなど,喜ばしく感じております.
今後,益々多様な分野の方々が,異なった視点から活発な議論を重ねることで新たな着想が得られますよう,会員の皆さま方の学会での活動を支援していきたいと考えておりますので,ご協力のほど宜しくお願いいたします.

平成30年6月
                       

一般社団法人レーザー学会会長  久間 和生